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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8763号 判決 1984年11月19日

原告 滝川秀夫

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 鈴木稔充

被告 (日本住宅公団訴訟承継人) 住宅・都市整備公団

右代表者総裁 大塩洋一郎

右訴訟代理人支社長 永田亮吉

右訴訟代理人弁護士 草野治彦

右訴訟復代理人弁護士 上野健二郎

右指定代理人 小栗鴻志

<ほか四名>

被告 北本市

右代表者市長 大護俊英

右訴訟代理人弁護士 飯山一司

同 金臺和夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告滝川秀夫(以下「原告秀夫」という。)に対し、連帯して金一三〇〇万二九五五円及びこれに対する昭和五一年三月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告滝川妙子(以下「原告妙子」という。)に対し、連帯して金一二一八万九五五五円及びこれに対する昭和五一年三月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

原告らの二女である訴外亡滝川順子(昭和四八年五月一三日生、本件事故当時二歳一一月、以下「亡順子」という。)は、昭和五一年三月二三日午後二時二〇分ころ、埼玉県北本市大和田下石戸上字下手二の一先日本住宅公団北本団地(以下「北本団地」という。)南側排水溝(以下「本件排水溝」という。)の別紙添附図面記載のB水路(以下「B水路」という。)中赤印地点(以下「本件事故地点」という。)付近において用水路に転落、溺死した(以下「本件事故」という。)。

2  (本件排水溝の状況)

(一) 北本団地南側には市道が別紙添附図面記載のA水路及びC水路(以下それぞれ「A水路」「C水路」という。)に沿ってほぼ東西に走り、その南側においてA水路、B水路及びC水路が交錯し、本件排水溝を形成している。

(二) 本件排水溝は無蓋であり、B水路は、幅員三・五メートル、水深約一・五ないし一・七メートル、水面までの深さが約一・七メートルで、両側面がコンクリート製で直立している溝になっており、上部には、約一メートルの間隔で厚さ〇・二メートル、幅〇・一五メートル、長さ三・五メートルのコンクリート製の桁が並べられている。A水路は、幅員二メートル、水深約〇・一ないし〇・二メートル、水面までの深さが約二・一メートルで、両側面がコンクリート製で直立している溝になっており、上部には、約一メートルの間隔で厚さ〇・二メートル、幅〇・一五メートル、長さ二メートルのコンクリート製の桁が並べられている。

(三) B水路には排水が集積され、その水面下に汚泥が堆積しているため、大人でB水路に転落すれば溺死する危険がある。

(四) A水路の南側でB水路の東側に当たる部分は駐車場になっており(以下「本件駐車場」という。)、本件駐車場とA水路及びB水路の境には、高さ約〇・七メートルの鉄製のガードレール(地面から約〇・四四メートルより上部に約〇・二四メートルの帯状のフェンスがある。以下「本件ガードレール」という。)が設置されており、これと同種のガードレールがC水路に架けられた橋(市道から汚水処理場への通路となっている。以下「本件橋」という。)の欄干としても設置されている。また、A水路の市道側及びC水路のA水路との合流点から本件橋の傍までの間高さ一・一七メートルの金網フェンスが設置されている。

(五) 本件橋上のガードレールと右金網フェンスの間には約〇・三メートルの隙間(以下「本件隙間」という。)がある。

3  (本件排水溝の管理)

被告北本市(以下「被告市」という。)は、本件排水溝を所有しかつ管理をしていた。

被告住宅・都市整備公団(本件事故当時の承継前被告日本住宅公団は、昭和五六年一〇月一日に解散し、その一切の権利義務を被告住宅・都市整備公団が承継した。以下、いずれも「被告公団」という。)は、本件事故当時、本件排水溝の付替及び改修工事を行っていたのであるから、被告市と共同して本件排水溝を管理していたというべきである。

4  (本件排水溝の瑕疵について被告らの責任)

亡順子は、本件隙間から前記金網フェンスの本件排水溝側に進入し、A水路上の桁を渡り、B水路と本件ガードレールとの間の幅約四一センチメートルのコンクリート製の岸の上を本件駐車場に沿って南に向かって歩いていた際、B水路の本件事故地点付近に転落したものである。

ところで本件隙間は、子供が自由に出入りできるようになっており、A水路及びB水路付近は、子供の遊び場のような状態になっていて、従来から子供らがしばしば本件隙間やガードレールの下をくぐりぬけて本件排水溝の縁端付近で遊び、本件事故以前にも、本件排水溝に子供が転落して傷害を負ったという事故も数回発生していたところ、被告らは、北本団地自治会から、本件排水溝の周囲に際間のないフェンス又は本件排水溝の上に蓋を設置するよう要望を受けており、本件排水溝の危険を本件事故発生以前に十分認識していた。

以上のように、本件排水溝には、本件隙間のような、転落事故を発生させる危険のある箇所が存在しており、被告らもかかる事態が発生する可能性を認識していたのであるから、被告らは、本件排水溝の管理者として、本件隙間からの立ち入りを防止する施設又は本件排水溝に蓋を設置するなど転落事故を未然に防止するような措置を講ずべきであったのに漫然と危険な状態のまま放置し、よって本件事故を発生させたものであり、したがって、被告らの本件排水溝の管理には、瑕疵があったというべきである。

5  (損害)

(一) 逸失利益

亡順子は、本件事故当時二歳一一月の健康な女児であったから一八歳から六七歳までの四九年間は稼働可能であり、その間女子の平均年収である金一六三万三二〇〇円の収入を得ることができた。右収入の五割を生活費として控除し、新ホフマン式計算方法(ホフマン係数一七・三四四)により算出すると、亡順子の逸失利益は、金一四一六万三一一〇円となる。

亡順子の親である原告らは、法定相続分に従い、右金額の二分の一(金七〇八万一五五五円)を相続した。

(二) 慰藉料

亡順子が死亡したことにより原告らが受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、各金四〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用

原告秀夫は、葬儀費用として、金七三万九四〇〇円を支出した。

(四) 弁護士費用

原告らが本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任するにあたり、原告秀夫は金一一八万二〇〇〇円、原告妙子は金一一〇万八〇〇〇円をそれぞれ原告ら訴訟代理人に対し支払う旨約した。

よって、原告らは、被告らに対し、不法行為による損害賠償として原告秀夫に金一三〇〇万二九五五円、原告妙子に金一二一八万九五五五円及びこれらに対する本件事故発生の翌日である昭和五一年三月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  (被告公団)

(一) 請求原因1のうち、原告らの二女である亡順子が昭和五一年三月二三日に本件排水溝に転落、溺死したことは認め、その余の事実は知らない。

(二) 同2(一)の事実は認める。同2(二)のうち、A水路及びB水路の幅員及び桁の長さを否認し、各水深は知らないが、その余の事実は認める。同2(三)の事実は知らない。同2(四)及び(五)の事実は認める。

(三) 同3の被告公団に関する事実のうち、権利義務の承継に関する点は認め、その余は否認する。即ち、被告公団は、昭和四六年一二月から昭和四七年三月末までの間、A水路及びB水路の改修工事を施行したにすぎず、本件事故当時はB水路を一切管理していなかった。

(四) 同4のうち、亡順子の進入経路に関する事実は知らないが、その余の事実は否認する。

(五) 同5の事実は否認する。

2  (被告市)

(一) 同1のうち、亡順子の転落地点は知らないが、その余の事実は認める。

(二) 同2(一)及び(二)の各事実を認め、同2(三)の事実は知らない。同2(四)及び(五)の事実は認める。

(三) 同3の被告市に関する事実のうち、本件排水溝が被告市の所有であることを認め、管理の点は否認する。即ち、被告市は、昭和五二年一月一日、被告公団からA水路及びB水路の管理を移管されたものであり、それ以前の両水路及び防護柵等は、被告公団が管理していた。したがって、被告市がその管理責任を負うことはない。

(四) 同4のうち、亡順子の進入経路に関する事実は知らないが、その余の事実は否認する。

(五) 同5の事実は知らない。

三  抗弁

(過失相殺)

亡順子は、事故当時二歳一一月の幼児であったのであるから、原告らは、亡順子の屋内及び屋外の行動を十分に監督する義務があるのにこれを怠り、本件事故当日、亡順子の行動を放置したものであり、損害額の算定にあたっては、原告らの右過失を斟酌するべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1事実のうち、原告らの二女である亡順子が昭和五一年三月二三日に本件排水溝に転落、溺死したことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、亡順子は、昭和四八年五月一三日生まれであり、本件事故当時満二歳一一月であったことが認められ、これに反する証拠はない。

亡順子が転落した地点について判断するに、《証拠省略》を総合すれば、亡順子の死体発見場所は、本件隙間から約四〇メートル南方の本件事故地点であるB水路水面下の汚泥の中であったこと、B水路の川底には汚泥が堆積しており、水の流れは緩やかであったことを認めることができ、これに反する証拠はない。右の事実を総合すれば、亡順子が転落した場所は、亡順子の死体が発見されたB水路の本件事故地点付近であると推認することができる。

二  (本件排水溝の状況)

1  請求原因2(一)、(四)及び(五)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(二)について判断するに、《証拠省略》によれば、A水路の幅員及びA水路にかかっている桁の長さは、いずれも二・〇四メートル、B水路の幅員及びB水路にかかっている桁の長さは、いずれも四メートルであることが認められ、これを覆すに足る証拠はない。次に、《証拠省略》によれば、A水路の水深は、約〇・一ないし〇・二メートルであり、B水路の水深は、約一・八メートルであることを認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。その余の請求原因2(二)の事実は、当事者間に争いがない。

3  請求原因2(三)について判断するに、《証拠省略》によれば、B水路には、北本団地周辺の雨水の排水、水田の用排水及び北本団地の汚水処理施設で処理された後の水の排水などが集積され、その川底にはかなりの量の汚泥が堆積していることが認められ、これに反する証拠はない。この事実及び前記2認定のB水路の水深が約一・八メートルであるとの事実を総合すれば、児童はもちろん、大人がB水路に転落した場合でも溺死する危険があると推認することができる。

三  (本件排水溝の瑕疵)

本件排水溝の管理者に関する請求原因3についてはさておき、同4について判断する。

1  《証拠省略》によれば、亡順子は、昭和五二年三月二三日、午後〇時すぎころ、訴外図師孝(以下「孝」という。)と北本団地内で一緒に遊んでいたが、その後孝と共に本件排水溝縁端付近に移動したこと、原告妙子は、本件事故発生直後、孝の案内で本件隙間から本件排水溝縁端付近に入り、A水路上にわたしてある桁を渡り、B水路と本件ガードレールとの間の幅約四一センチメートルのコンクリート製の岸の上を本件駐車場に沿って亡順子の転落地点である本件事故地点付近に行ったことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

他方《証拠省略》によれば、本件事故当時本件隙間から約六〇メートル東には、A水路上に架けられ北本団地南側市道と本件駐車場を結ぶ土橋があり、これによって市道から本件駐車場には自由に出入りすることができるようになっていたことが認められ、これに反する証拠はなく、本件駐車場とA水路及びB水路の間には、本件ガードレールが設置されていたのみであったことは当事者間に争いがない。そうだとすると、満二歳一一月の幼児であった亡順子が右土橋を渡って本件駐車場に入り、本件ガードレール(地面から〇・四四メートルの高さまで隙間があることは、当事者間に争いがない。)をくぐり抜けて本件排水溝縁端付近に進入した可能性もあると認めることができる。

もっとも、《証拠省略》中には、原告妙子は、孝から亡順子が本件排水溝内に進入した地点は本件隙間であるとの発言を聞いた旨の供述部分があり、また、原告滝川妙子本人尋問の結果中に、本件事故から約一か月後に、原告秀夫が孝から右同様の発言を聞いたとの部分がある。しかし、《証拠省略》によれば、孝は、本件事故発生当時満四歳の児童であったこと及び本件事故発生の通報を受けて現場に駆けつけた北本市消防署次長である訴外小谷野伊助が、孝に対し、亡順子の転落地点及び本件排水溝の縁付近への進入地点を尋ねたところ明確な回答がなかったことが認められ、これらの事実をあわせ考えると、亡順子が本件排水溝の縁付近には本件隙間から進入したと断定することはできず、前記の可能性も否定しきれるものではない。

2  右のとおり、本件において、亡順子が本件排水溝の縁付近に進入した地点は明らかでないが、これまでに認定した事実によれば、満二歳一一月の幼児である亡順子が満四歳の児童である孝と共に本件排水溝の縁付近に進入することのできる可能性があるのは、本件駐車場側のガードレールからかあるいは本件隙間からかのいずれかであるということができる。そこで、本件駐車場とA水路及びB水路の間に設置された本件ガードレール並びに本件隙間につき瑕疵の有無を検討する。

(一)  本件隙間の広さが〇・三メートルであることは当事者間に争いがないところであり、この程度の広さならば一般人が本件隙間を通って本件排水溝縁付近に立ち入ることは可能であると解せられるところ、《証拠省略》によれば、本件排水溝は、北本団地の敷地の大部分を囲繞し、そのいずれの地点においても人が柵を乗り越える等して排水溝縁付近に立ち入ることが可能であり、したがって人が本件排水溝に転落する危険があったことが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  《証拠省略》によれば、右証人らは、本件事故発生前、北本団地自治会の役員として、北本団地内の住民の生活環境を向上させる施設の設置を被告らに数回要望したが、その際、本件排水溝付近には、本件隙間を含む危険箇所があるとして、本件排水溝のすべてに蓋をすること又は危険箇所に有刺鉄線か金網を設置することなどを右生活環境向上という目的の一環として要望したことを認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。

もっとも証人豊川義武は、本件事故発生前に北本団地住民の子供が本件排水溝に転落する事故があったことを聞いたことがあると供述しているが、右証言は伝聞であり、同じ北本団地の住民である証人金子幸男が、本件事故以前に子供の転落事故があったと聞いたことはないと供述し、証人小谷野伊助が、本件事故以前に転落事故の発生による消防隊員の出動要請を受けたことはないと供述していることに鑑みると右豊川義武の証言はにわかに措信し難く、結局、本件事故発生前に本件排水溝に子供が転落する事故が発生したとの事実を認めるに足る証拠はないというべきである。

次に、《証拠省略》によれば、本件排水溝の桁を利用して遊んでいる子供がいたこと、本件隙間などから本件排水溝の縁付近に入り、A水路又はB水路の縁を通って本件駐車場及びB水路南側の県道に行く者がいたことを認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。しかし他方、証人小野寺将の証言によれば、同証人は、昭和四九年一一月一日から昭和五三年六月一日まで被告公団関東支社浦和営業所北本団地担当の管理主任の地位にあり、一日に一回くらい本件排水溝周辺の見回りをしていたが、本件排水溝内に入って子供が遊んでいるのを見たことはなく、本件排水溝を通路として利用している者がいるとは聞いていないこと、証人岡村亨治の証言によれば、同証人は、昭和四八年五月から昭和五四年一〇月まで被告市の下水道課長として勤務していたところ、本件事故発生前に、本件排水溝内に子供が立ち入って遊んでいるとの事実を聞いていないことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

右認定の各事実の下では、本件排水溝の縁付近に子供がいたことがありまた同所を通行する者があったとしても、同所が子供の遊び場のような状態になっていたこと並びに本件隙間及び本件排水溝の縁が通路として恒常的に利用されていたことまで認めるに足りないというべきである。

(三)  《証拠省略》によれば、本件排水溝は、居住地として使用されている北本団地内でなく、北本団地の外側に存在することが認められ、この事実及び前記(一)、(二)認定の事実を総合すると、一般的に人が転落する危険が内在する長い排水溝の周囲のすべてについて蓋ないしいかなる人も進入する隙間もないような柵を設置することは極めて困難であり、被告らにはこのような構築物を設置するまでの義務はないというべきである。

そして、本件隙間は、市道と本件排水溝の境に設置された鉄製フェンスと本件橋の上に設置されたガードレールが接する地点に偶然できたものであって、本件排水溝内への立ち入りを予定する場所でなく、長い排水溝のうちで特にここに進入を阻止すべき特段の構築物を設けなければならない箇所というわけでもない。

以上のような本件排水溝全体及び本件隙間の性格並びに本件事故以前における転落事故の発生又は本件排水溝の縁が一般人の通行の用ないし子供の遊び場に供されていたことがいずれも認められないことに鑑みれば、仮に亡順子が本件隙間から本件排水溝内に進入したとしても、そのような経過で発生した事故は、被告らにとって通常予想しえない行動に起因するものであったということができる。したがって、仮に被告らが本件排水溝を管理していたとしても、被告らは、本件事故のような不測の事態に備えて、本件隙間から本件排水溝内に人が立ち入るのを完全に防止するような措置を講じる義務まで負担していないと解すべきであるから、本件隙間の存在をもって、本件排水溝の設置又は管理に瑕疵があったと認めることはできない。

(四)  次に、本件駐車場とA水路及びB水路の間に本件ガードレールが設置されていたのみであったことをもって、本件排水溝の設置又は管理に瑕疵があったということができるかどうかを判断する。

まず、本件ガードレールの規模は、前記認定のとおりであり、通常人が本件駐車場からA水路又はB水路に立ち入るのを困難ならしめるような施設でないことは明らかである。

しかし、《証拠省略》によれば、本件駐車場が駐車場になる前は、水田であったこと、本件ガードレールは、本件駐車場が水田だったころ、水田に利用される農耕器具がA水路又はB水路に転落するのを防止することを目的として設置されたことをそれぞれ認めることができ、これに反する証拠はない。右水田が、本件事故発生当時本件駐車場になっていたことは、前示認定のとおりであるところ、本件駐車場において通常予想される危険は、本件駐車場の利用者及び車輌が誤ってA水路又はB水路に転落する事故が発生することであり、本件駐車場の利用者等が、ことさら本件ガードレールを乗り越え、又は、地面から波形フェンスまでの約〇・四四メートルの隙間をくぐり抜けるようなことをしない限り、本件排水溝の縁に入ることができないことは明らかであるから、本件ガードレールは、本件駐車場の利用者及び車輌が誤ってA水路又はB水路に転落するのを完全に防止することができるものであると認めることができる。

また、本件事故発生以前から本件ガードレールを乗り越えて本件排水溝内に出入りする者が多く、そのために本件排水溝が子供の遊び場又は市道と本件駐車場を結ぶ通路のような状態になっており、したがって、本件排水溝の管理者をして転落事故の発生を予想できるような状況があったとは認め難いことは、既に前記(二)で認定したとおりである。

そうだとすると、本件ガードレールは、A水路又はB水路への転落を防止する施設としては十分なものであり、仮に被告らが本件排水溝を管理していたとしても、被告らには、本件事故のような不測の事態に備えて本件ガードレールよりも本件排水溝への立ち入りを困難ならしめる施設を設置する義務はなかったというべきであるから、本件排水溝の設置又は管理に瑕疵があったと認めることはできない。

四  以上の次第であるから、その余の事実を判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないのでこれらをいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 土居葉子 萩原秀紀)

<以下省略>

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